日本透析医会雑誌Vol.16 No.3

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[医療経済]

透析医療と経営−業界構造分析−

医療経営戦略研究所所長
櫻堂 渉

要旨

今後、医療機関は規制環境下における競争というまったく新しい次元に直面する。そして、医療機関がその使命を果たすためには、将来の環境変化を前提とした、競争についての深い理解と戦略についての洞察が不可欠である。

透析業界は4つの戦略グループで構成され、個々のグループにおける経営持続性のためのリスクと重要成功要因は異なる。そして医療機関が競争上の優位を獲得するためには、市場からの思考に立脚した、患者の価値連鎖に基づく自院の分析とマネジメントが重要である。

はじめに一疾病市場の視点一

医療の特性を捉える場合、2つの異なる視点が求められる。その1つは医療全体をマクロ的な側面から捉えることである。すなわちこれは医療供給と医療需要それぞれを全体として取り扱い、全体像を理解することが目的である。そしてもう1つの視点は、市場を個別の疾病市場に細分化したうえで、個々の需要側と供給側を捉えることである。

これまで政府であれ、医療研究者であれ、医療費を管理統制しようとする意図から市場をマクロの視点で捉えることが優先されてきた(1)。しかし、マクロ経済の目標を医療資源の最適化とするならば、その行動計画の実行段階で各疾病市場の目標を設定することが必要になる。さらにその市場に影響を与える要因として、保健水準、代替的な医療技術、補完的な医療技術を論じることが必然となり、これはとりもなおさずミクロの視点にほかならない。すなわち、マクロとミクロは相互に連関するため、どちらか一方の視点だけでは整合性の欠如した議論にしかならないのである。ここで論じるのはこれまで政府や研究者が行ってきたマクロ的認識を所与としたうえで、ミクロ的な視点に立脚している。

わが国の経済が困難を克服する過程で、医療資源の消費を国家レベル、地域レベルでどのように抑えるかという議論は避けて通れない。したがって、医療資源の非効率を修正する過程で、医療機関の統廃合が進展する。これは非効率な運営をしている医療機関や、不要な診療科を保有したり質の伴わない医療技術を提供したりということを、政府も市場も許さないということにほかならない。その一方で、医療機関の使命は良質な医療を提供することで、地域住民の豊かな生活を保証することである。この使命に忠実であればあるほど、適切なサービス提供を行う医療機関の存続が地域社会から求められることになる。

地域社会の要請に応えるためには、漫然と市場全体を概観して医療サービスの範囲と水準を決定するのではなく、その地域における疾病ごとの市場の把握とその市場における供給側の行動についての深い理解が不可欠となる。すなわち「製品から考え始めるのではなく、顧客集団、顧客ニーズから考え始めねばならない」(2)というマーケティング・サイエンスの考え方そのものが意味を持つのである。そして市場のニーズに基づき医療機関の集団がどのようなサービスをどのような方法で墟供しているのか、個々の医療機関におけるサービスの水準と範囲についての理解を深めることが、市場における医療機関の最適化行動を導くことになる。言い換えれば市場における最適化行動とは、市場における競争上の優位を確立し、顧客に価値を届けることであり、これがほかの組織に比べ高い利益率を獲得することにつながる(3)。その結果その組織の経営持続性を高めるのである。

本稿は、個別の疾病市場を論じるためのフレームワークを提供する。そして透析医療を1つの業界モデルとして捉え、最終消費者に医療サービスを提供する医療機関の集合、すなわち個別の疾病市場ごとに形成されている業界の特性について把握し、市場に対してどのような方針で望むべきかという問いに回答を出そうとするものである。


1 透析業界の現状分析

透析医療の業界は一般の医療と比べ異質ともいえる行動をとり続けている。一般病院が1995年から1999年の間−3.4%と減少を続ける中、透析部門を新設する病院の数が6%増加している(図1)。この傾向は診療所ではさらに顕著であり、一般診療所が5.5%の増加に対し、透析医療機関の診療所の数は23%もの伸びを示している。

施設数をみると、1991年2,046施設から1999年3,019施設と973施設増加している。この間減少した施設が134施設、新規に増加した施設が1,070施設である。増加した施設1,070の内訳をみると、病院496、クリニック574であり、病院を経営主体別にみると、私立病院が298、次に自治体96、その他公的が67となっている(図2)。私立病院が実数として多いものの、各主体別医療機関数の全体に占める割合をみると、自治体病院が最も高い割合で透析部門を新設していることになる。

各経営主体の投資行動を人工腎臓の増加率でみると、1991年から1999年の間にクリニックが85%と突出している。病院では自治体、私立病院、その他公的等がほぼ40%前後の伸び率に収束している。ここで特徴的なのは、透析部門の新設および人工腎臓の増加率ともに自治体病院がそのほかの医療機関に比べて高い伸び率を示していることである。

さらに各経営主体別の施設数と人工腎臓の伸び率から業界におけるポジショニングをみると、この業界において量的且つ積極的な経営行動をとっているのが診療所である(図3)。病院では私立が量的には多いものの、その他公的、自治体という主体は私立病院にほぼ匹敵する挙動を示していることがわかる。一般医療の世界では、経営環境が悪化しているために病床数を削減し、あるいは人員の合理化で乗りきろうとしている中で透析医療の施設増加はきわめて異例である。

何故透析業界がこのような状況を呈しているのであろうか。M.E.ポーターは競争の戦略で業界を特徴づけるのは新規参入の脅威、買い手の交渉力、供給業者の交渉力、代替品の脅威、競争業者間の敵対関係の強さなど、5つの競争要因であると述べた(4)。しかし、医療市場を前提とした場合、4つの競争要因が主要なものである。すなわち、政府、新規参入需要、業界内部の関係である(図4)。


2 業界の構造

1)政府

医療に代表される規制業界において、政府の役割はその影響力の大きさゆえ重要である。規制業界における政府の責任について、近年議論が噴出しており、内閣府の総合規制改革会議では「多様な主体が競争を通じて生み出す効率的なサービス提供が阻害されている」(総合税制改革会議の中間報告重点6分野に関する中間取りまとめ平成13年7月24日内閣府総合規制改革会議)と従来のあり方に対する問題を指摘している。

医療における政府の機能は突き詰めて考えると、業界(ここでは医療機関の意味)のモニターとコントロールである。さらに業界のモニターのみならず市場の動向や変化への対応も業界への働きかけを通じて実行される。つまり、政府の市場コントロール手段の多くの部分は業界を通じて行われることになる。そして政府は業界の規模を、価格のコントロールによって事後的に制御し、また各種の基準によって業界への参入を排除することにより業界規模を調整する等、業界に多大な影響力を有する。

価格は供給のコントロールとともに、経済学やマーケティングの観点からはきわめて重要な意味を持つ。一般財の市場では、平均的な価格水準がその業界の利益率を決定し、その業界で利益を上げようとする企業や新たに参入をしようとする企業にとって、市場への参入や退出を決定するためのシグナルとしての意味を持つ。そして個々の組織においては、市場における価格が、戦略そのものの重要な要素となる(たとえば、マクドナルドやユニクロといった企業の戦略は、低価格戦略にその成功要因がある)。

この業界に入るためには、政府の許可が必要となるが、一度業界への参入を果たせば、業界内においてどのようなサービスをどの程度(レベルと量)を提供しようとも自由である(組織間相互の調整はしばしば存在する)。重要な点は価格が市場によって決まるのではなく、その決定権が政府に委ねられている点であり、価格水準により、業界の利益水準が決定されることにある。

2)新規参入

次に業界全体に影響を与えるのは、業界への参入のしやすさである。一般市場では業界の魅力度(ここで言う魅力度とは技術の希少性や興味に基づくものではなく、経済的便益をさす)に従って企業が自由に参入・退出する。一度は参入を果たした企業であっても、成果を上げられない企業は、市場の機能により退出を余儀なくされる。業界への新規参入の程度は、参入障壁(注1)、市場価格と需要の大きさ、医療技術の革新性の度合い等の要因により決定される。

参入障壁とは、業界への参入の困難さを決定づけるものであるが、参入しようとする医療機関にとって医療技術が希少性を有す、あるいは技術の習熟に長期間を要す等、医療技術そのものの獲得が難しい場合この業界への参入は困難となる。たとえば、循環器科を標榜する医療機関はここ5年間で急増しているものの、オープンハートの手術をする医療機関の数はほとんど増加していない。これとは異なり医療技術が標準化されていると同時に、それを支える運営システムも1つのサービス提供単位としてシステム化され、標準化されている場合、新たな組織の参入は促進される。

透析医療においては、透析機器の技術の進展や医療技術の向上が継続的に行われ、これが技術の高度化を内包した医療の標準化を促進させた。そして透析施設の人員体制やシフト、医師や看護婦の業務範囲など、施設間の運営体制はほぼ近似している。つまり、運営システムが標準化していることにほかならない。すなわち、医療技術の進展による技術の向上と運営システムの標準化が医療の質を下げることなく、比較的容易にこの業界に参入することを可能にしている。

技術の特性とは別の要素として、業界内部における市場と医療機関の関係も参入に影響を与える。医療機関の間ですでに患者の発生から治療までのルートが決定され、さらにこれがほぼ例外なく実行される場合、つまり医療機関が機能により統合されており多くの患者がこの間の移動で完結する場合、新たに参入しようとする医療機関は積極的な参入に対して慎重な姿勢をとらざるを得ない。業界に新たに参入しようとする医療機関は、その業界が対象とする市場の規模と政府が決定した医療技術の価格(診療報酬)を考慮する。しかしたとえ超過需要(注2)が多く、市場や政府からの要請があったとしても、必ずしも参入する医療機関が増えるとは限らない。たとえば相対的な需要(患者数)が増加しているにもかかわらず、小児科を標榜する医療機関の数が増加しないという現象が生じており、そ

の理由として、多くの医療機関は小児医療の価格の低さを指摘している。この例からも明らかなように、需要の多寡だけで参入の意思決定がなされるわけではなく、需要の規模と価格から、期待する経済的な成果をもとに参入が決定されるということを示唆している。  透析業界においては、前述の通り、公立・公的病院の多くが民間病院と同じ挙動を示し、透析業界への参入や投資が増加している。このような現象は需要そのものが伸びていることを前提とし、透析医療を行っている基幹病院が外来透析の患者をほかの医療機関に紹介することによる売上の機会を失うことをさけようとする行動によるものである。また基幹病院の新規参入は、透析医療の価格水準がほかの医療技術に比較して相対的に高いといった経済動機が大きく影響している。  多くの医師は、自らの専門の決定や独立する場合の標榜科の決定を、社会的使命、適性、知的興味、将来の市場における技術のニーズ、キャリア、稼得利益等、様々な要素に基づき検討する。それぞれが個々にとっての重要度は異なるが、すでに成熟化した技術よりも革新性や新規性のある技術を選好する傾向にある。これは研究者としての研究意欲に基づく行動、あるいは将来のキャリア形成の可能性に基づく行動と考えられる。  透析業界の参入障壁が相対的に低い点に加え、業界に一度参入すると機器や設備のほかの診療科への転用がきかなかったり、撤退のためのコストが高い(看護婦、技士等多くの人材を抱え込み簡単に縮小ができない)などの要因とともに、透析の部門長は自らのプライドや職員への思いやりから縮小や撤退を避けようとする意志が働く。したがって業界全体としては過剰キャパシティ(供給過剰)状態が継続しやすい構造を有している(5)。

(注1) 政府による規制や特許のように、企業が市場に参入するのを阻止する要因
(注2) 所与の価格において、需要量が供給量を上回っている状況

3)需要構造

一般財の市場においては、需要は極端に変動する。たとえばレコードがCDに駆逐されたように、既存技術により形成されている市場が代替技術によりとって代ったり、携帯電話の爆発的な普及といった、新たな製品の登場により新たな市場が急速に生まれたりということにしばしば直面する。

医療においても供給が需要を生むといった医師需要誘発説(6)が存在するものの、基本的な需要構造は一般財のそれとは異なる。すなわち、各疾病の市場の規模は人口構造、疾病毎の発生率でほぼ規定される(長期的には産業構造の変化や技術革新、国民経済等の影響は無視できない)。したがって多くの疾病市場は線形で推移するという特徴を有し、基本的に急激な変動は起こらない。政府は定期的に地域別の患者数をモニターし、需給の調整を行っている。しかし、果たして業界は需要の影響を受け、弾力的に変化するのであろうか。この疑問に対する1つの回答は、近年の循環器科を標榜する医療機関の推移である。

循環器科の医療機関は近年著しく増加している。病院の経営者は人口の高齢化を背景とした循環器疾患が増加している状況を前提とし、将来の需要の予測を判断要素の1つとしている証しである。透析医療においても慢性腎不全患者の数は増加し、多くの医療者が需要の増加を確信していることが前提となっている。そして相対的な透析医療の価格の高さが、需要の規模とともに業界の利益率の高さから参入が増加しているのである。しかし、政府は業界を通じ需要のモニターを定期的に行っており、業界のコントロールを目的とした価格調整を行っている。したがって、需要構造と政府の政策そして業界への参入は相互に連動している。

4)業界内部の関係

透析の治療は、頻回且つ継続的な治療を必要とするのが一般的である。このような治療上の特性から医師は通院における患者の苦痛を最小化しようとするであろう。したがって、透析医療機関の診療圏は、患者が恒常的に通院可能な距離内に規定されるのである。急性期病院と比較してこの点が異なるところである。そして、診療圏内における医療機関の数と敵対関係の強さによって、医療機関各々の患者規模が規定される。

すなわち、一般に透析医療機関の診療圏は急性期病院のそれに比べ狭く、さらに各医療機関はその狭い診療圏域の限られた患者を対象とすることから、施設は小規模である。そしてその多くは独立した小資本の施設形態をとり、小規模・多数の医療機関が存在する。すなわち透析医療の業界は、小規模・多数の組織が混在する業界(fragmented industry)(7)と定義することができる。

医療機関が提供する医療サービスは、各疾病のステージに対比する診療のプロセスが生み出す価値の連鎖(value chain)として表現することができる。そして透析業界全体をサービス提供における価値連鎖(value chain)(8)で分類すると、4つのグループに分類することができる(図5)。ここで市場に対して積極的にサービス価値を提供するという意味で、このグループを戦略グループと呼ぶこととする。

4つの戦略グループのうち、第1のグループは主に基幹病院で透析導入期だけを扱い、安定維持期の外来透析は患者居宅に近い透析医療機関に紹介するという構造である。これを高機能特化型と定義する。第2のグループは透析導入期を扱い、さらに併わせて安定維持期の外来透析も行う施設である。これは、川上の診療プロセスから川下の診療プロセスも一貫して取り扱い、すべてを内部化して統合していることから垂直統合型(内部化)とする。第3のグループは第2グループと本質的な価値連鎖は同じであるが、維持期の外来透析を本体と同一資本の院外透析クリニックで行うというところが異なる。すなわち、このグループの構造は垂直統合型の類型であり、診療のプロセスは垂直統合しているものの、川下の診療は外部化していることから垂直統合型(外部化)と分類することができる。そして第4のグループは医療機関の数としては最も多く、外来維持透析に特化している機能形態の施設であり、これを川下特化型とする。この施設は高機能特化型の施設から発生する患者の受託部門として位置付けられる。

3 透析医療機関の戦略

1)戦略グループの方針

将来の経営環境の変化に対して、どの戦略グループが競争上の優位を獲得できるのであろうか。そしてそれぞれの戦略グループが成果を高めて行くためには、どのような組織対応が求められるのであろうか。それぞれの戦略グループは機能が異なることから、取り扱うべき疾病の状態や症状の程度が異なる。そして機能に応じ施設の運営のためのコスト構造が異なるため、すべてのグループに共通する呉体的戦略は存在しない。すなわち個別の戦略を導出するためには、必然的に各々の戦略グループの重要成功要因を把握する必要がある。

高機能特化型は、機能に合った患者をいかに集めるかが課題である。すなわち透析部門のみならず、各診療科の総合力としての能力が患者数を左右するのである。病院全体の機能の向上と高いアウトカムを提供しつづけるための組織努力が知名度や評判を向上させ、結果として直接・間接的に患者を集めることにつながるのである。

第2のグループ、基幹病院で導入期とともに維持透析を行っている医療機関(垂直統合一内部化)は、組織内に費用構造の異なる2つの混在したマネジメントを有することになる。したがって、クリニックや小規模病院に比べると、建物・設備あるいは間接部門等の高い固定費構造を持つ外来部門で維持透析を行うことになり、透析診療報酬の価格の低下が重要な意味を持つ。すなわち病院本体が検査診断機器や人員配置等により、重装備化すればするほど固定費が高く、売上が低下したとき極端に赤字の体質に移行するという弱みを有する。

第3グループは、維持透析部分を外部化しサテライト化している。すなわちサテライトの収益で病院経営全体を補完する傾向が強い。しかし、病院本体の知名度やreputation(評判)が低い場合、サテライトに充分な患者を供給できない。また、診療報酬の価格低下は病院本体に利益を供給できず、病院全体の経営を急速に悪化させることになる。

第4グループ(川下特化型)は、川上の基幹病院で発生した患者の外来維持透析部分を主として担当する。この形態の多くは診療所であることから、垂直統合の内部化に比べると運営コストが圧倒的に低い。すなわち、このカテゴリーの医療機関はコスト削減に努力を傾注するよりも患者の数が経営上の鍵となる。患者の数は基幹病院からの紹介に依存する。基幹病院側の視点から川下特化型の施設をみると、地域に複数の紹介対象医療機関(川下)が存在する場合、川上施設の患者紹介の選択基準は、患者の住所地、人的関係、医師の技術力、医療機関としてのアウトカム、評判等、多様な要素である。しかし、この中で最も重要なのは、川下の医療機関が高い医療技術を有し、症状の程度に基づく適切な医療連携を行い、医療の質を保証するかが鍵となる。言い換えると、川下医療機関にとって医療の質を背景とした川上医療機関への交渉力が重要な成功要因となる。またこのグループの課題は低コスト化と同時に質の向上である。このためには、医療従事者の訓練とともに診療プロセスの標準化を徹底し、効率化と高質化を目指す必要がある。

この4つの戦略グループは、将来の透析医療費の抑制に対してどのような影響をうけるのであろうか。これまでの分析から、価格変動に対して強く影響を受けるグループは第2グループの基幹病院で、導入期とともに外来維持透析を拡大している垂直統合型の医療機関であり、このグループは、固定費の高い構造の中で外来維持透析を行っているため、固定費を賄うための売上を確保しなければならない。すなわち年間発生する患者数に大きな変動がなく、ほぼ一定と仮定すると、価格の低下による影響が最も高く、全グループの中で最もリスクが高まる。

第3グループも同様に価格変動による影響が高いグループである。しかし第2グループと異なり、サテライトの固定費を低く抑えているため、この領域の効率化が病院全体を支えるという構造をとっている。したがってコスト構造上の差異から第2グループよりも受ける影響は低い。しかし、その一方で、サテライトが大規模化しているケースも多く、この場合は病院自体の集患力をいかに高めるか、あるいは需要弾力的に施設運営を合理化できるかが鍵となる。

透析医療市場を量的に支えている第4グループは、診療所あるいは小規模病院の形態をとり、構造的に固定費が低いことから価格低下による経営上のリスクは最も低くなる。しかし、第1グループが経営上の問題から第2あるいは第3グループに移行した場合、次第に紹介患者数が減少するというリスクを有する。またこのグループは、経営者、スタッフともに労働集約による生産効率を高めてきたグループであり、医療従事者の高齢化や医療政策の変化に耐えられず、疲弊している医療機関が増加するといった将来的なリスクを内包させている。

2)患者の価値連鎖

経営戦略は時代や環境に伴い遷移するものである。しかし、基本的な戦略はコストリーダーシップ、集中、差別化およびそこから派生したものである。コストリーダーシップとは、業界内で最も低コストを達成することで、これが低価格化を推し進めたり、付加価値の高い製品を作る源泉を確保したりすることで、競争力を高めるという戦略のことである。多くの医療機関は従来この戦略に終始してきた。医療材料の仕入れ価格を下げる努力をしたり、人件費を削減したりということがこれにあたる。すなわち費用のコントロールとそれによる利益の獲得こそが唯一の戦略として認識され、それ以外の明確な戦略を持っていなかったといえる。また医療機関は需要の多寡や病床の規模とは無関係に総合化の道に邁進し、特徴を持たない広域の疾病に対応するだけの大規模病院が相次いで設立され今日に至っている。この原因は明らかに需要を起点とした発想の欠如にあり、集中化という思考に至らなかったことによる。

コストリーダーシップや集中化という言葉は医療界ではあまり馴染みがない。しかしこれらに比べると差別化という言葉はかなり頻繁に用いられる。多くの医療従事者や有識者が医療経営を語るときに、差別化という言葉を多用してきたことがこれを物語っている。そして差別化という言葉を抽象的に捉えたまま使いつづけてきたのである。

差別化とは、患者にとってほかの医療機関とは異なる特別な価値のことである。つまりすべては施設側からの視点ではなく、患者側の視点に立脚している。すなわち、施設経営者は、差別化を考えるにあたり患者側の視点に立ち、サービス提供のあり方、サービスの内容、患者にとっての成果を総点検しなければならない。これは、組織の捉え方を機能単位から患者の価値単位へ組替え、その価値の連鎖として組織行動全体を捉えるといった患者の価値連鎖の考え方に基づかなければならない。これは、先ず患者に対して組織が提供する価値活動の全体像を捉えた上で、細分化し最小単位を捉えること、そしてその最小単位の活動がもたらす価値がどういうものかを明確化し、最後に一連の活動全体の価値を認識することである(図6)。そして、その各プロセスの付加価値を合計したものがその医療機関の価値の大きさになるのである。

医療機関は自院が提供すべき患者の価値について丁寧に検討することが出発点になる。そして患者の価値連鎖に基づき自院のサービス水準を評価する中から、強み・弱みが明確になるのである。このような分析から、組織における強化領域や効率化領域が異体的且つ明確になる。患者の価値を突き詰めて考えると、臨床上の実績と患者のコストの2つに集約される。すなわちすべてのサービス行為が患者の実績を上げ、患者のコストの低減に貢献しているかどうかという視点で再考する必要がある。患者のコストとは患者が診療に要する直接的な費用のみならず、時間の消費、精神的苦痛、肉体的な苦痛をも含む。この分析をもとに自院が提供している価値連鎖における差別化領域を特定化することになり、競争上の優位が導出されるのである。

おわりに

政府は日本経済の逼迫により、医療市場における競争原理の必要性を提起した。規制の堅持を前提としながら、市場をコントロールすることに全力を傾けてきた政府にとって、競争というコンセプトは正に対極にある考え方である。政府をして競争と言わしめた根底には、わが国の医療システムに対する脆弱な構造がみて取れる。

わが国の医療は現在ヘルスケア・リフォームの渦中にあり、医療機関の統廃合や保険者機能の強化、日本版DRG/PPSの実施等が進行中である。すなわち医療機関は規制環境下における競争というまったく新しい次元に直面することになる。しかし、競争が不慣れな業界にとって競争という言葉の持つ意味にはある種の危うさが存在する。それを回避するためには、競争を業界内部の淘汰と捉えるのではなく、市場に如何に対峙するかという視点にたち、競争に対する正しい理解が求められる。そして競争により市場効率的な対応を体得した医療機関の増加は、業界の淘汰ではなく、業界の再生を意味することになる。

文献

  1. 遠藤 明:診療報酬改定の方法と問題点。医療保障と医療費;社会保障研究所、東京、P94、1996。
  2. コトラーF.村田昭治=監修。訳:和田充夫、上原征彦:消費者市場と購買行動。マーケティング原理;ダイアモンド社、東京、P271、1983。
  3. ミンツバーグH.:ポジショニングスクール、戦略サファリ;東洋経済新報社、東京、P83、1999。
  4. ポーターM.E.訳:土岐 坤、中村寓治、服部照夫:競争の戦略;ダイアモンド社、東京、P20、1982。
  5. 桜堂 渉:わが国における「ハイテク在宅医療」の将来展望。社会保険旬報2034;17、1999。
  6. 西村 周三:医師数と医療費。医療保障と医療費;社会保障研究所、東京、P237、1996。
  7. ポーターM.E.訳:土岐 坤、中村寓治、服部照夫:競争の戦略;ダイアモンド社、東京、P262、1982。
  8. ポーターM.E.訳:土岐 坤、中村寓治、小野寺武夫:競争優位の戦略;ダイアモンド社、東京、P48、1985。

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