日本透析医会 Vol.19 No.1

櫻堂渉の過去の文献一覧です。DPC対応急性血液浄化法の今後の戦略−DPCの影響度と戦略的対応−

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櫻堂 渉文献

医療機関の会計制度改定にどのように対応するか
−透析医療機関に求められる社会の流れへの注目と積極的対応−

櫻堂 渉  鈴木 喜六

はじめに

医療機関の会言十制度改定の動きが進んでいる。具体的には、2004年4月から、病院会言十準則が改定・適用される。また、医療法人会計基準の制定も予定されている。いま何故会言十なのだろうかと疑間に思う方も多いだろう。この問いにいくつかヒントを与えたい。

私の知る限り、病院経営を財務会計的な側面から見ると、その実態はきわめて脆弱である。しかし、その脆弱さの程度は特定の病院単位で認知されていたものの、全体がどのようになっているのか、その実態が明らかになっていなかった。これまでの官主導、護送船団方式の中ではこれに疑間を呈する必然性がなかったとも言える。

一方、日本経済の低迷から国、地方を間わず財政難に陥っている。必然的にこれは医療費財源にも及んでいる。自治体病院がこぞって病院改革をすすめているのは経済的理由を優先してのことである。また政府が進めている医療改革は、医療の効率性、医療の信頼性、医療の保障性を目標としているものの、本質的には経済改革である。すなわち、財務会計を適切な制度にする目的は、医療機関の経営実態を正確に把握し、医療費財源を適正に配分することにより、医療効率を高めることである。

われわれは好むと好まざるとにかかわらず、経済の影響を受ける。今日の社会においては経済がすべての変化の起点になるのである。つまり、会計制度改定は社会からの要詰と捉えるべきである。これはマクロ的な背景の解釈であるが、個々の医療機関を考えた場合どのように解釈すべきであろうか。

会計制度改定とあるので事務長や経理部長の仕事と考えがちだが、損益言十算に大きな影響を与え、また情報公開の流れとも関係して、長期的に医療経営に大きな影響を与える、また、「病院」とあるので診療所には関係がないと考えがちだが、医療機関全体に対する社会からの評価が急激に変わりつつあることに注目する必要がある。つまり、事務・経理の間題ではなく、経営管理者の課題と捉えるべきである。

今回の会計制度改定はまさに医療機関の積極白勺な情報公開を目指すものであるが、透析医療機関は患者の慢性化などによってほかの医療機関に比して情報公開 の姿勢が消極的であるとの声が聞かれる。今後、不透明であればあるほど杜会の要請と乖離するだけでなく、制度的な罰則も強化されよう。その点では透析医療機関こそが、社会の流れへの注目と積極的な対応が必要となる。

病院会計準則改定などのあらまし

1:改定される制度と適用対象

現状では次のように予定されている。

  1. 病院会計準則の改定は、施設としての病院(個人・法人)に適用されるもので、2004年4月からの適用が予定されている。
  2. 医療法人会計基準の新設は、経営主体としての医療法人に適用されるもので、2004年4月からの適用を目指すものの、1年程度延期になる可能性がある。
  3. 上言己から、個人経営の診療所にはいずれの制度も適用されないが、ほかの医療機関が医療法人会言十基準を遵守している中で、あえて適用されないことに甘えるのでは、経営管理の点からは大きな問題を抱えることとなる。

2)経過措置などと強制力

  1. 経過措置と適用除外
    適用に当たっては、小規模の施設・法人を中心として経過措置や適用除外が発生する可能性がある。しかし、後述する社会全体の情報公開の流れや、組織の活性化の視点から、適用除外に甘えることなく積極的に取り組む姿勢が重要となろう。
  2. 強制力
    医療法人会計基準は強制力を持つが、病院会計準則は「準則」であり強制力を持たない。しかし、各種補助金申請に対する審査項目として病院会計準則の適用が加わる可能性があり、その点では実質的には強制力を持つと考えるべきである。

2:病院会計準則改定の背景

1)病院会計準則改定と医療法人会計基準制定の検討の流れ

現状の病院会計準則は昭和40年10月に制定され、昭和58年に全面的改正が行われたが、必ずしも多数の病院が適用したとはいえない状況であった。その後、一方においては一般企業や杜会福祉法人などの会計基準の改定充実が進められ、他方においては医療施設の類型化、介護保険制度の創設、医療サービスに係わる構造変化など、病院を取り巻く経営環境は著しく変化している。

また、一つの医療法人が病院以外の事業を営む事例が増加し、「施設としての病院」に加えて「経営主体としての医療法人」の会計が重要となったことが、医療法人会計基準の制定を求めたことは自然の流れであろう。

このような状況を受けて、2002年6月公表の四病院団体協議会病院会計準則研究委員会による「病院会計準則等の見直しに関して(中間報告)」の検討成果、「これからの医業経営のあり方に関する検討会」(座長:田中滋慶魔義塾大学大学院経営管理研究科教授)、ならびに日本公認会計士協会非営利法人委員会医療法人専門部会による検討成果を踏まえて、2003年9月公表の「病院会言十準則及び医療法人会計基準の必要性に関する研究班」(主任研究者会田一雄慶鷹義塾大学教授)による研究報告によって、改定の方向性が示されている。

これらの動きを見ると、今回の病院会計準則の改定と医療法人会計基準の制定は、一時的な思い付きなどによるものではなく、まさに時代の流れを反映して長期的に取り組んだ結果であり、経営者としてもその趣旨を考慮しての前向きの対応が求められている。

2)病院会計準則改定・医療法人会言十基準制定と情報公開の関係

最近に至り、医療以外の側面では、社会福祉法人会計基準の制定、公益法人会計基準(案)の公表、非営利組織会計制度の見直し、独立行政法人会計基準、国立大学法人会言十基準などで公的部門に対して新たな会計基準が策定され、財務情報の透明性が高まっている。

また、一般企業についても、企業会計原則の二度にわたる改正、さらには連結財務諸表制度、金融商品に係る会計基準、退職給付に係る会計基準等により、ここでも債権者に対する情報提供をはじめとして客観性のある財務情報が公開される方向をたどってきた。

このような環境変化を受けて、国民に信頼される医業経営の担い手として、効率的で透明な医業経営を確立するためには、病院会計準則の適用を推進し、病院開設主体問の経営数値の比較可能性を確保して、病院経営の効率性と透明性を高めることが必要との考えが強まってきた。

このような流れを見ると、単に会計制度の改定ではなく、「会計処理を適正かつ共通なものとする」ことを経由して、「医療経営の実情を、財務情報を含めて杜会に公開する」流れの一端を目指していることがわかる。もちろん現在直ちに財務諸表を公開することにはならない。しかし、たとえば数年前には「カルテを開示すべきか否か」を議論していたのが、現在では「開示は当然、具体的にどうするか」に議論が移っている社会価値観の変化を考えれば、財務諸表の公開が常識となる可能性は高いと考えるべきであろう。

3:病院会計準則改定の具体的な内容と病院経営への影響

1)病院の財務諸表体系

今回の改定では、作成すべき財務諸表の種類として、 貸借対照表・損益計算書にキャッシュフロー計算書を 追加し、また利益処分計算書を除外した。このほかに 病院会計準則の改正が行われる際には、施設会計基準 として椙互に密接な関係を持つ介護老人保健施設会計・ 経理準則、指定老人訪間看護の事業および指定訪問看 護の事業の会計・経理準則の改正も必要と考えられて いる。

財務諸表の種類として、貸借対照表・損益言十算書・ キャッシュフロー計算書が言われているが、実は現状 の病院会言十準則と比べると、貸借対照表が損益計算書 の前に出てきている。これは偶然ではなく「貸借対照 表を重視する時代」との考えによっているようだ。こ の考えは、医療収益の増加が期待できない環境にあっ ては、損益言十算書よりも貸借対照表に表現されている 財務構造が大きな問題となっていることを示している のだろう。つまり一度過剰借入に陥ると、借入返済資 金は税引き後の資金に依存するので返済負担がきわめ て大きくなることとなるために、経営再建をすること はきわめて困難であることに対する問題提起であり、 示唆に富むものといえるだろう。

1.貸借対照表

現状に比して大きな変更はないが、科目が細分化さ れていることが目を引く。たとえば、長期貸付金は、 長期貸付金・役員従業員長期貸付金・他会計長期貸付 金に細分されるようになった。このことは、公私混同 的な資金の流れが明瞭になることとなる。たとえば、 理事長個人に医療法人から貸付金があればその実態が 表面化し、まさに経営の透明性が実現されてしまうこ ととなる。

2.損益計算書

現状に比して大きな変更はないが、医業費用に中区 分が設けられた点が目立つ。つまり、大項目としての 医業費用の下に、給与費・材料費・委託費・設備関係 費・研究研修費・経費・雑費の中区分を設けている。 また、委託費の内訳として、検査委託費・給食委託費・寝具委託費・医事委託費・清掃委託費・保守委託 費・その他の委託費として細分化することとなり、経 営実態が一層明確となる。

この結果、費用の集計が経営管理にそのまま活用で きる形式となっている点では、経営者にとっても外部 関係者にとっても優れたものとなっている。当然なが ら、このメリットを活用して経営管理の向上を果たす ことが望ましい。逆に、ほかの医療法人の経営幹部が 自己財務分析に十分に活用し、自院が活用を怠るので あれば、経営管理面での立ち遅れの原因ともなりかね ないこととなる。

3.キャッシュフロー計算書
A、キャッシュフロー計算書の意義

キャッシュフロー計算書は、今回の改定の主要点の 一つである。キャッシュフロー言十算書は、ほかの産業 でも広く作成されているが、その理由は次の2点であ る。

第一に、損益計算書が示す利益は一部が未収金とな っているために「勘定あって銭足らず」に象徴される 黒字倒産を招くことがあることである。したがって、 現金残高を管理するためには、キャッシュフロー計算 書によって管理することがわかりやすいためである。

第二に、損益計算書は粉飾される例が散見されるこ とだ。つまり、売上や経費を粉飾することによって利 益操作をすることを防ぐための方法としてキャッシュ フロー計算書が有効であるためである。キャッシュフ ロー言十算書を要約すれば「前期末のキャッシュ残高」 十「当期のキャッシュ増加額」一「当期のキャッシュ 減少額」=「当期末のキャッシュ残高」となるが、こ のうちの「前期末のキャッシュ残高」と「当期末のキ ャッシュ残高」は操作ができないために、粉飾のない 信頼できる財務諸表となるためである。

なお、ここでのキャッシュとは、現金および要求払 預金並びに現金同等物とされており、いずれも残高証 明などで確認できるものである。

B、キャッシュフロー計算書の区分

キャッシュフロー計算書には、「業務活動によるキ ャッシュフロー」、「投資活動によるキャッシュフロー」 および「財務活動によるキャッシュフロー」の区分を 設ける。この点が、資金繰り表との違いとなっている。

C、キャッシュフロー計算書の表示方法
【表示方法】

キャッシュフロー計算書の表示方法としては、直接 法と間接法があり、どちらかを選択することとなる。 直接法とは、主要な取引ごとにキャッシュフローを総 額表示する方法であり、間接法とは、税引前当期純利 益に非資金損益項目、営業活動に係る資産および負債 の増減、「投資活動によるキャッシュフロー」および 「財務活動によるキャッシュフロー」の区分に含まれ る損益項目を加減して表示する方法である、 実務上は、直接法は事務負担が大きいことから、間 接法を採用する病院が多数を占めると予測される。

【直接法と間接法の違い】

直接法と間接法の違いを、医療未収金を例に取ると 表1のようになる。 注意すべきは、直接法と間接法の選択は「業務活動 によるキャッシュフロー」だけについてのものであり、 「投資活動によるキャッシュフロー」および「財務活 動によるキャッシュフロー」については直接法だけが 採用される点だ。たとえば、医業未収金については期 首と期末の残高比較によるが、借入金については残高 の比較ではなく「短期借入れによる収入」と「短期借 入金の返済による支出」、「長期借入れによる収入」と 「長期借入金の返済による支出」を区分して計上する。 このことは、よく考えてみれば経営者が実情を表現す るためには当然のこととしてよく理解できる。

表1 直接法と間接法の違い
  1月 2月 3月 4月
直接法
  医療収益・窓口収入 A 301 302 303 304
      保険収入 B 0 0 701 702
  収入合計(売上ではない) (A+B) C 301 302 1004 1006
間接法
  医療収益・窓口収入 D 301 302 303 304
  保険収入 E 701 702 703 704
  売上合計(収入ではない)
F 1,002 1,004 1,006 1,008
  医業未収金の増加=未収
G 701 702 703 704
  医業未収金の減少=回収
H     701 702
  収入金額
(F−G+H) I 301 302 1,004 1,006

2)病院の財務諸表作成上の改定

1.解説する項目

ここでは、病院の損益に対する影響が大きい、退職 給付会計の導入と、リース資産の会計処理とに限定し て取り上げる。

2.退職給付会計の導入
A、退職給付会計のあらましと税制改定の影響

財務諸表の作成に当たっては、退職給付会計の導入 を義務付けたために、大半の病院において減益または 損失計上になることとなった。

退職給付会計の導入とは、将来必要な退職給与の見 積もり金額を、費用として計上することである。費用 計上すべき総額は、「期末に全職員が自己都合退職し た際の必要金額一別途年金制度で外部に蓄積した金額」 である。この計上は現金の流出を伴うものではないが、 今後仮に外部への運用委託を行うのであれば支出も発 生する。この金額は、一度に計上すべきとするのでは なく、15年分割での引当となると予想されている、 ここで注意すべきは、この費用計上が税務上の損金 とならない点だ。したがって、「退職給付会計の導入 のために赤字となったが、税金は支払う」ことになる 可能性がある。これは、企業財務としての費用処理と、 企業税務としての費用処理に考えの違いがあるためで あり、この違いは今後も継続していく見込みである。

この問題は、もう一つの複雑な課題と併行して処理 されるために、現場では一層複雑となる。それは、平 成14年度の税制改定で「退職給与引当金」が廃止さ れ、4〜10年間に分割して取り崩し(利益に加算する) となるためだ。この、退職給付に引き当てる金額と取 り崩す金額は、個々の医療機関の就業規則・職員の状 況・年金制度により変動するので、顧間税理士などと 検討することが不可欠となる。

B、隠れ負債であるとの指摘
改定の基本的な患想は、「現状の財務諸表には、将 来の退職給与が表現されていない。つまり、隠れ負債 になっているのだから、これを表面化して、清く正し く美しく表現すべきである」との考えがある。その際 にも「従来の税法基準は、企業経営の実態とは分離し ている」との考えもある。これらの考えは、必ずしも 間違ったことではないが、急激な改定である点に問題 があるとの声が大きい。
3.リース会計

財務諸表の作成に当たっては、リース会計のオンバ ランス化(リースを受けている資産と、未払いリース 料を貸借対照表(バランスシート)に言十上する)を行 うこととされており、これにより、リース利用の病院 では自己資本比率の低下を招くこととなった。

A、ファイナンス・リース取引のオンバランス

リース取引はファイナンス・リース取引とオペレー ティング・リース取引に区分し、ファイナンス・リー ス取引については、通常の売買取引に係る方法に準じ て会計処理を行うこととなる。

ここで、ファイナンス・リース取引とは、レンタル などとは異なり、(顱飽譴弔侶戚鵑如∧件価格以上をリ ース料として支払うこと、(髻謀喘羃鯡鵑困難であるこ と、の条件を満たすものをいう。

B、目本ではオフバランス

ファイナンス・リース取引については、原則は、会 言十上は企業が借金して設備投資をしたとみなして、借 手企業が資産と負債に計上することとなっている。こ れをバランスシートに言十上するということで「オンバ ランス」と称するが、アメリカではこれだけが公認さ れている。

これに対して日本では例外的に資産計上しないで (オフバランス)、脚注でも可としているが、この結果、 貸借対照表はスリムになり自己資本比率が向上するこ ととなる。日本はこの例外が上場企業1、051社のうち 1、048杜が利用するという、圧倒的多数を占めている。

C、オンバランスの影響

未払リース料総額は、未払い金・長期未払い金に含 めて言十上し、同額を資産の器具備晶などに含めて計上 する。この結果、自己資本比率は低下していく。

元来、リース契約は長期的固定負担を招くものであ り、これを貸借対照表に計上していない現状に問題が あったことは否定できないが、ここでも急激な改定で あるとの声が多く聞かれている。

表2 事業報告書の構成
  1. 法人の概況
      設立年月日
    1. 医療法人の種類
    2. 社員および持分の状況(社団の場合)
    3. 役員等に関する事項
    4. 職員の状況
    5. 施設の状況
    6. 付帯業務の状況
    7. 主要な借入先
    8. 決算日後に生じた法人の状況に関する重要な事実
  2. 事業の状況
    1. 事業の経過および成果
    2. 設備投資の状況
    3. 資金調達の状況
    4. 法人の対処すべき課題
    5. 運営状況および財産状況の推移

3)医療法人会言十基準の制定

1.財務諸表体系・改定した項目

検討課題としては、連結財務諸表があるが、これの 実現見込みは不明である。

2.事業報告書

事業報告書とは、法人全体の運営状況、支払能力、 透明性、経営資源の状況、将来性、安定性、安全性、 設備の状況、などを説明するための資料である。今後、 金融機関、出資者、債権者、国・地方自治体、納税者 としての国民、従業員、経営者、納入業者、さらには 患者等医療サービス利用者(潜在的患者を含む)など に対して、情報公開をする必要性は広まると考えられ る。しかしこのための情報提供の手法が未確立のため、 これの対策として有意義な方法といえる。

この事業報告書は、現状の医療法人会計基準新設に おいては義務化されない可能性があるが、逆にこのよ うな情報を提供することは医療法人の支持者を増やす 効果があり、積極的に対応することが望まれる。 具体的な項目例は表2のようになる。

4:経営幹部が対応すべき項目

1)基本としての積極的な対応

1.直ちに行うべき事項

経営幹部は、まず「病院会計準則Lと医療法人会言十基 準を、確定後に積極的に適用する」との組織決定をす ることが必要となる。制度の詳細は未定であるが、そ の方向性は医療機関の経営の面で積極的に受け止める べき事柄であり、経営幹部の明確な組織決定と意患表 示が前提条件となる。

2.早期に行うべき事項

早期に、病院会計準則の改定と医療法人会計基準の 制定の基本的な考えを、経営幹部もよく理解しておく ことが必要となる。

次に、キャシュフロー計算書についての研究を進 めることである。キャッシュフロー言十算書は概念も作 成方法もほかの産業で実績があるから、書店での参考 書を活用するなどで十分に可能である。

2)外部への対応

体制的には、顧問税理士などに対して「病院会言十準 則の改定と医療法人会計基準の制定を、積極的に適用 する」の組織方針を伝えて、早期に事前研究をするよ うに要請することが重要である。顧問税理士などには 十分の対応ができない例も予想されるが、最悪の場合 には顧間税理士の交代を含めて、強力な対応を行うべ きである。今回のような、病院会計準則の改定と医療 法人会言十基準の制定は前例のないことであり、それな りに毅然とした対応をすることが望まれる。

現実的には、銀行への早期の説明が必要となる。特 に、退職給付会言十とリース会計の改定は、実質的な損 益ではないとしても財務諸表では、目己資本比率の低 下と、減益または損失の計上が示される。この点を説 明しないために銀行から取引を解消された事例もあり、 確実な説明をする必要性が大きい。

3)組織内への対応

1.財務諸表の内容点検

財務諸表の内容に、金融機関などに公表されて問題 はないかの検討を行うことが必要となる。たとえば、 貸借対照表における役員貸付金の金額表示や、損益計 算書における委託費の内容、あるいは過大な役員報酬 において、経営幹部との公私混同などがないかを点検 しておくことが必要となる。

2.公表の相手先

財務諸表の公開においては、外部よりも内部への情 報公開を先行させることが必要となる。今後の経営に おいて必要とされる「組織一丸となっての経営理念の 実現」のためには、内部への情報公開は必須となる。 さらに、内部職員に対して財務諸表を公開しても職員 は理解できるのかという重大な課題があり、計画的な 職員教育などの対応が必要となる。

この考えを進めると、幹部教育の材料として活用す ることが望まれる。つまり、「すべての病院の決算を 統一し、将来は公開し、透明性を高める」との杜会全 体の流れをどのように受け止めるかである。たとえば、 医療機関ごとのカルテや医療内容の公開、杜会福祉法 人に準ずる経営内容の公開と同じ流れにある。その流 れに自分たちはどのように対応するかを、幹部職員に 考えさせることが重要である。その点では、幹部教育 のための絶好の機会とすることができる。

3.管理会計体制の構築

今回の退職給付会計の導入は、税務会計から管理会 言十を分離させることである。それは、表3に示す会計 の体制区分を考えれば明確である。

表3 会計の体制・3区分
税務会計 税務申告のための決算書。中小病院を含む中小企業は現実にはこれが唯一の財務諸表であり、申告時以外に は活用されていない。
財務会計 外部の利害関係者に対して提供される会言十情報であり、外部の判断を誤らせないために多くの杜会的規制が ある。病院会計準則・医療法人会計基準がこれに該当する。現実には、ひたすら作成するのに精一杯で、活 用する例は少ない。
管理会計 売上高の内訳別計算・部門別原価言十算・投資などの政策の効果検証・設備投資予定の検討など、組織の意思 決定と組織自身による分析のために提供される会計情報であり、年成自体やその方法は企業の任意である。

税務会計・財務会計をきちんと行うことは、組織の 最低条件ではあるが、しかしこれでは経営上の意思決 定には有効とならない。今後の病院の業務を考えると、 業務内容の多様化・複合化(入院外来だけではなく、 健診・在宅・老人保健施設なども行う)や戦略的な部 門選択(赤字でも相乗効果などの戦略的な狙いで行う 分野の選択)などが増加する。

らに診療報酬定額化の流れは売上の頭打ちを招き、 コスト削減の重要性が高まるが、そのために原価管理 が不可欠となる。原価管理についてはもっぱら計算作 業の手数負担が障害となり、また経済インセンティブ が無いために、民間病院の7割を占める200床以下の 病院では、ほとんど進んでいないように思える。一方 で医療機関に対する社会からの評価は厳しくなること から、財務面を含めた経営情報を外部に公開する方向 が強まる可能性がある。

さらに資金調達の多様化は、融資機関の多様化と審 査方法の高度化を招き、外部への説明資料として現在 の病院会計準則に示される会言十情報では、外部関係者 の要求に応えることはとうてい不可能となる。したが って今後は、管理会計を拡大して財務会計情報に加え て一体となった医療経営についての情報提供を行い、 また外部からの意見を参考として意患決定の方向に進 むことが求められる。

税務会計と管理会言十の関係を考えれば、現状の税務 会計に一方的に従うような考え方は適切でなく組織の 実情に応じた処理をすべきである。この点で、財務会 言十や管理会計が自主的な運用を行い、税務会計との適 切な距離感が必要となる。たとえば「退職給付引当金 を15年分割で計上する」としても、それは税務上の 損金とはならない処理であり、税務会計との分離を前 提とする必要がある。

もちろん、たとえば減価償却年数(適切な見積もり と言っても、税務上の法定耐用年数以外の合理的な見 積もりはきわめて困難)のように、実現のための課題 は山積で業界ぐるみの長期的な対応が必要となる。当 面は、税務のための決算書作成に止まらないで、自分 達の意思決定の参考となる財務資料と経営資料の融合 化を図ることが現実的な課題となろう。

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