日本腎不全看護学会誌 第8巻第1号別刷

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櫻堂 渉文献

ランチョンセミナー1

医療環境変化と求められる組織行動

医療経営戦略研究所所長
櫻堂 渉

はじめに

組織は戦略に従うといわれている。環境の変化や社会システムの変化によって組織対応が求められる。このため、組織は環境変化に対応して自ずと変化するべ きであるといった、変革の必要性を示唆している。組 織は環境適応の産物である以上、決まった型があるわ けではなく、まして固定化して考えてはならない。し たがって、環境の変化をとらえること、そしてその変 化のなかで、組織が社会に提供できる価値を認識する ことこそが、組織デザインの重要なきっかけを与える ことになる。

I.医療改革の時代

われわれは現在、医療改革の渦中にいるという時代 認識をもたなければならない。わが国は2000年から大 胆な改革に着手している。医療改革のなかで象徴的な のがDPC(Diagnosis Procedure Combination)だ。 この施策に連動し、さまざまな政策が形成されている。

DPCとともに急性期病院の施策は、急性期病院の行 動を大胆に変革させることに成功している。特に、平 均在院日数の短縮は目を見張るものがある。急性期病 院の変化は市場の一カテゴリーの変化ととらえてはな らない。急性期病院の変化は、慢性期病院であれ、診 療所であれ、病院が相互に関連し影響し合う環境ゆえ に、急性期病院の変化の圧力はすべての医療機関に大 きな変化を与えると考えるべきである。

DPCは1つの現象にすぎない。その本質は、わが 国の医療供給体制の抜本的な変革である。医療改革を 大胆に実行しなければならない理由は、わが国の国家 財政の問題である。つまり、社会保障費の抑制にある。 経済の存在が、変化の基点になっていることを知る必 要がある。

II.透析医療市場の変化

1施設あたりの年間増加患者数

多くの施設経営者はいまだ気づいていない大きな変 化がある。ESRD(末期腎不全)の変化について、多 くの施設経営者は敏感だ。そして毎年、ESRDの数は 増加している。この増加の傾向をみて、将来の経営が 保証されていると考えてしまう。この考えを改めなけ ればならない。なぜなら、ESRDの全体数は増加して いるものの、1施設あたりの増加患者数(純増数)は 毎年減少しているからだ(図1)。

日本全体の平均値は、いまや1施設あたり年間1名 を切っている。つまり、大変な低成長下に突入してい るということになる。

そして、問題はこれだけにとどまらない。この傾向 は今後継続することが予想される。なぜなら、これは 一時的な現象ととらえるべきではなく、市場の構造的 な問題だからである。透析業界は、需要の増加や減少 にかかわらず、施設が増加していく構造的な特徴をもっ ている。

それでは、このような構造をもった透析市場におい て経営の持続性を発揮するためには、リーダーはどの ような方針で望めばよいのだろうか?端的にいえるの は、リーダーが市場情報に対する感度を変えないかぎ り、この傾向は持続するだろうし、経営の継続性が保 証される可能性は低いのである。

掘テ析医療機関の課題

これまで透析医療機関を取り巻く環境、透析医療機 関の集合体としの業界を概観してきた。それでは、今 後、透析医療機関はどのような課題に直面するのであ ろうか?何を解決する必要があるのだろうか?患者 数が構造的に増加しない、加えて診療報酬が削減され ている状況下において、何も行動をとらなければ、た だ利益だけが減少していくことになる。

利益を高めるための方策として、必然的にコストの コントロールが求められる。コストを適正化し利益を 確保する。さらに医療のサービス水準を徹底的に上げ ることにより、患者の満足度、家族の満足度を高めreputation(評判)を高め続けることが可能となり、これ が最終的にマーケテイングに結実する。これらの課題 を突き詰めて考えると、経営効率の向上と医療の質と いった1つの方向性に集約されることがわかる(図1)。

透析医療施設の課題の導出

IV.透析医療機関の戦略

この課題と今後の透析医療機関の戦略はどのように 結びついていくのだろうか。医療者の間で(特に政府 との交渉において)、しばしば間題になるのが、医療の 費用と質のトレードオフ議論である。つまり、医療費 が低ければ医療の質を保証することができないとする 説である。

しかし私は、Evansの主張する「費用と質は必ずし もトレードオフの関係にない」という説に同意する1)。 多くの医療関係者はこれに反対する。「かかるものはか かる。したがって、かかるものをくれなければ、医療 の質が犠牲になる」というのが彼らの主張だ。しかし、 仮に医療の質が費用とのトレードオフであれば、そも そも国家の医療問題も財政によりすべて解決するはず である。

このように考えると、政策決定者も経済学者も費用 と質の関係を否定しないものの、人間の力による新た なフロンティアを信じているはずである。

V経営効率の向上に関する考え方

1.コストコント□一ル

経営を効率化させる手段はさまざまである。一般的 なのは、従来からある購入物品を安く仕入れる、物の 使用量を減らす、残業を減らすなどの直接的な費用の 削減により、効率を上げようとするものである。しか し、この方法は隈界がある。なぜなら、多くの医療機 関では、すでに実施済みだからである。そして、これ を極限までに強化することは、必要な処置を行わない、 必要な投薬を行わない、必要な検査を行わないなど、 著しく医療の質を低下させることにほかならないから である。これこそ、費用と質のトレードオフになって しまう。

ここで、1つの同規模の透析医療機関におけるケース スタデイを紹介しよう。この透析医療機関の患者1人 あたりの利益比較を行った結果、患者21人・月あたり の利益額で約1倍の差、47,000円もの差が生じている ことがわかった。この違いを生む原因とは、いったい 何であろうか?その原因には、さまざまな理由が考え られるものの、どれも決定力を欠くものばかりである。

結論として、利益の差に大きな影響を与えるのは人 件費であり、その人件費に大きく影響を与えているの が透析の業務システムの差であるということが明らか になった。

表1経営効率化の鍵は“生産性革命”
・職員のやる気を高める
・経営効率は、システムの見直しから
・ボトルネックを取り除く
・議論に時間を使わない
・試してみる
・定着化させる(PDCA)
1.生産性革命による経営の効率化(表1)

ある透析医療機関は、業務を効率化するという視点 に立ち、透析業務を大胆に変更するといったシステム 改善を行った。その結果、大きな成果を得ることに成 功した。システムの改善前と改善後を比較すると、生 産性が1.3倍以上も上がったのだ。

普通に考えると、生産性を上げるということは、生 産スピードを上げることであり、したがって、職員が 懸命に働くことにより達成可能と考えがちである。し かし、これは問違いである。システムを変えずに、固 定的に考えるとこのような結論に至る。

これとは異なり、システムそのものを変更すること は、ハードワークを職員に強いることなく、生産性を 高めることが可能となる。経営効率化の鍵はシステム の改善である。

さらにこの医療機関では、システムの改善により患 者の満足度が上昇していることが明らかになった。ま た、職員の満足度も上昇していることが確認された。 患者満足度を医療の質を評価する指標の1つと考える と、システムの改善による生産性向上は、費用を適正 化するとともに医療の質を向上させることになる。

しかし、よいことばかりではない。生産性だけを追 いかけることで、職員の組織へのコミットメントが不 足している場合、サービスの水準が上がらないことは明 らかである。それでは、生産性とサービス水準の同時 達成にはどのような手段が有効なのであろうか?サー ビスの特徴は、「生産と消費の同時性」と定義すること ができる。つまり、生産者である人がサービス生産の 担い手である以上、職員のやる気がサービスの水準を 決定する。

3.職員のモチベーション

したがって、リーダーがまず行うことは、職員のコ ミットメントを引き出すことである。そして次に、シ ステムの改善を行うことである。システムは、組織に 大きな力をもたらす一方で、実態に合わないシステム は生産性を著しく低下させるどころか、職員の能力を 低下させてしまう。

システムは仕事の習慣である。残念なことに、多くの 医療機関は旧態依然としたシステムのまま今日に至っ ている。したがって、システムの修正を行わなければ ならない。一般にシステムの修正には困難を伴う。な ぜならば、システムを開発した人やこれを温存してき た人にとって、受け入れがたいことだからである。し たがって、リーダーは熱意をもってシステムの改善を 行わなければならない。

システムの改善の抵抗を取り除く最も効果的な方法 は、議論に時間をかけず先ずパイロット・スタデイ(試 行)を行うことである。そしてうまくいかない場合は、 すぐにもとに戻すというルールをつくり上げることで ある。このルールにより、議論に時間をかけることな く、すぐにアイデアを実行に移すことが可能になる。 実行したあとは、デミングサイクルPlan−Do.Check. Action(PDCAサイクル)に従って、プロセスを管理 することである。

VI.医療サービスの質に関する考え方

サービスの研究家により、次第にサービスの構造が 明らかになってきた。サービスは、先に述べた「生産 と消費の同時性」という特徴を有し、その構造は、本 質サービスと表層サービスから構成される。

本質サービスとは、顧客が支払う代価に対して当然 受け取ると期待しているサービス属性である。一方、 表層サービスは、代価に対して必ずしも当然と思わな いが、あればあるにこしたことはない期待サービスと 定義することができる。

したがって、これまで医療界のなかでサービスとイ メージされてきた多くのことは、表層サービスに属す。 一方、本質サービスとは、医療そのものの成果という ことができる。顧客にとって良質なサービスを提供す るためには、本質と表層の両方のサービス領域を高め なければならない。どちらか一方がよければよいとい うことにはならないのである。

たとえば、医療技術の水準は高いが、説明してくれな い、窓口の対応が悪い。こうなると患者の印象は、せっ かく高い医療技術をもっていたとしても、結果的に悪 くなってしまう。患者としては後味が悪いのである。 また、患者は医療技術そのものを評価する術をもって いない。したがって、自分が受けるイメージが優先し がちである。その結果、患者の評価は低下してしまう。

サービスの生産は人が行う以上、人の行動が重要と なる。ここに着目したのが、マニュアル化である。し かし、マニュアルは仕事の手順書であると同時に、標準 仕様書である。したがって、マニュアルは標準のサー ビスを生産するのには役立つ。しかし、それ以上の質 を上げるためには、マニュアルに書かれていない、も てなす気持ち、気配り、愛、などという不確かなもの が求められる。これを規定するのはマニュアルではな く、サービスマインドである。

VII.戦略の実行(問題をどのように解決するか)

戦略を立てることは、それほど難しいことではない。 最も難しいのは、それを実行することである。戦略を 実行に移すためには、組織が行動を開始しなければな らない。そのために必要なのは、組織全体の目標を設 定することである。目標とは、航海でいえば海図であ る。そして、その目標を職員全体が共有化すること、そ れを個人個人の目標に再設定することである。

そして、管理者は、リーダーシップを発揮しながら、 職員のモチベーションを高め、改善にあたることであ る。システムを改善しながら、デミングサイクルを回 すように全体のマネジメントに気を配らなければなら ない。戦略の実行が適切に行われると、財務が改善し、 医療の質が改善していく。すなわち、ここで経営の持 続性が確保できるのである。

絶え問なくこれを続けていくことが重要である。中 長期的にはこの積み重ねが、評判を生むことにつなが る。そして、他の施設とサービス上の優位性を獲得す ることにより、競争上の優位性をもった施設に生まれ 変わることを可能にする。

引用文献

  • 1)櫻堂渉:透析医療と経営一業界構造分析、日本透析医会雑 誌、16(3)、1001.
  • 1)櫻堂渉:総論:医療経済全般について、透析フロンテイア、 13(3)、1003.
  • 3)嶋口充輝:顧客満足型マーケティングの構図一新しい企業

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