透析フロンティア series5

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櫻堂 渉文献

 

日本型医療制度改革のスキーム
−基金拠出型法人の概要−

棲堂 渉  高橋 雄樹

要 旨

 第5次医療法の改正では、医療への株式会社参入議論に伴う医療法人の非営利性への疑問に端を発したといわれる医療法人制度改革が、厚生労働省による「基金拠出型医療法人」の創設により、経済界からの批判の矛先をかわしたとされている。

 この基金拠出型法人とは、「持分」という概念はなく、社員の退社時における財産分配額の上限は、実際に法人に拠出した(設立時や既存法人への入社時)額とされる。さらに、残余財産の帰属先を国・地方自治体か、類似の医療法人に限定する等、非営利性を改めて徹底する形にしたものである。現在、株式会社の資金の医業経営の運営資金などへの拠出とともに、「基金」制度は今後の医療環境の変化に対応すべく、医療法人の経営基盤安定化に大きく寄与するものと推測できる。

はじめに

 今日の厳しい経済環境において、わが国の医療の未来像は、まさしく危機にあふれている。特に厚生行政に対する国民の意識は懐疑的だ。また、国民の不安から引き起こされる圧力の源泉は
【1】将来にわたって安全にかつ持続的に医療を受けることができるのだろうか?
【2】誰でも公平に医療サービスを受けることが可能なのだろうか?
【3】その時の経済的な負担はどうなるのか?(自分は排除されないのだろうか?)
等に集約され、国民のニーズを今一度しっかり見極めていく必要がある。この国民の要求と圧力に対する政府の回答が第5次医療法改正といえる。基金拠出型医療法人は、突然現れたものではなく、このような国民の未来に対しての危機意識を背景とした日本版のヘルスケア・リフォームの文脈でとらえるべきである。

 それでは、なぜ基金拠出型医療法人なのだろうか?マクロ環境を概観すると、人口の高齢化に伴い、医療需要は増加の一途をたどっている。その一方で昨今問題となっている、医師や看護師の不足が指摘されている。また、国民経済の視点からは、世界同時不況の影響がわが国の不況をより深刻なものにしている。わが国の成長力が限界に達していることも多くの国民が感じていることである。したがって、政府が直面するのは経済成長の鈍化により財源が不足し、医療資源が不足する一方で、社会保障費負担が増加していくというジレンマである。

 政府の課題は、この財源不足と医療消費の増加をどのように解決するかにある。一方、経済学の定義する「市場の失敗」故に政府の介入が必要とする政府の立場と、医療は市場経済で効率化する、という規制改革の対立から、陸路を見出さなければならないといった課題を投げかけている。

 このような環境下における回答の一つが、本稿でとりあげた基金拠出型医療法人制度である。政府の意思を正確になぞることはできないが、この制度改革の狙いは医療の非営利性を確保しながらも、企業やその他の出資を引き出すための道具建てと捉えられる。

 長期的な社会保障費の抑制は、医療機関のキャッシュフローを悪化させ、医療機関の閉鎖や倒産を促進させ、新規開設のインセンティブを減じることとなる。その結果、今後増加する医療需要に対して、現在においてさえ、国際基準を下回る医療環境をさらに悪化させることになるだろう。この間題を解決するために、医療機関の資金調達の新たな手段として、企業の寄付行為(拠出)を推進することにより、医療機関の経営基盤を安定強化する方法論と捉えることができる。

 従来の医療法人の制度においては、企業の出資は禁じられていた。しかし、基金というスキームにおいては非営利性を確保しながら、企業が資本注入をすることが可能となる。一方、経済的なメリットがないことに企業が出資を行うに足る合理的な説明が得られないものの、しかし、企業は実利の伴う経済だけで生存するわけではない。アメリカの医療を例にとれば、スタンフォード大学病院はマイクロソフトやバクスターといった企業をはじめとする、多数の企業の拠出金により運営されており、もはや企業の拠出金がなければ、機能、管理を維持することが不可能といわれている。このように企業自体が非金銭的な価値についての理解を深め、reputation(評判、名声)を競争優位の戟略とする企業の出現は新しい胎動と捉えられる。

 わが国の医療施設が継続事業体(ゴーイングコンサーン)としての条件を具備するために、個人や医療法人だけではなく、様々な資金調達手段を持つことはきわめて重要な意味を持つものである。加えて、企業や個人が政府とともに医療を支える仕組みを整備・実践することが、とりもなおさず国民が望む医療の実現と安定につながるものであり、さらに健全な社会の形成に寄与すると考える。

1.医療法人制度改革の概要

 先の第5次医療法改正は、なんら波乱もなく平成18年6月14日に成立した。医療関連法案を巡るかつての国会審議の混乱・停滞傾向と比べ、意外なほど円滑に法が成立したといわれている。また、平成13年3月に医療制度改革の基本方針が決められていたことや、医療費適正化を前提とした医療提供体制のあり方と見直し、さらに県単位を基本骨格として医療機能の分化や高齢期の一定程度の患者負担引き上げと国民合意等々、改革のメッセージが明確にされつつ、一貫した当時の政府にプレがなかったことなども大きく影響したといえる。

 これら「医療法人制度改革」をトップに、「病院再編成」「医師・看護師不足対策」等は、改革の三大柱となった。なかでも昨今の医療法人の放漫経営による倒産や株式会社の違法な医業経営参入を阻止するためにも、医療法第54条の原点に戻った「医療の非営利性」を強化するに至ったものである。

【1】基本的な考え方
 持分のある医療法人から出資額限度法人(拠出型医療法人)への変革、というものである。
・非営利性の徹底を通して医療法人に関する国民の信頼確立をめざす
・「官から民への流れ」を踏まえ、従来の公立病院の医療を医療法人が担えるようなシステムづくり
・効率性、透明性の高い医業経営の実現により、地域医療の安定化
 上記のように、儲かる、儲けられるという日的ではなく、出資金の返戻は出資額を限度とすることから、「 医療の公共的な性格」というシンボル的な部分について、新たなポジションを確保するための出資額限度法人創設という変革に至った。

【2】さらなる公的ポジションでの「社会医療法人」の創設
 これは税制上の優遇措置が設けられていることからも、ハードルを高くかつ限定したスキームとされている。
 その主旨は、一定の必要条件を備えた住民参加型の医療法人制度であるということにある。具体的には以下である。
・税制上の優遇措置
・債券発行を前提
・公的医療機関経営への積極的参加
・収益事業や福祉事業など多様な事業展開
・医療機関に応じた他の医療法人との幅広い連携の推進 等々
唯一デメリットとして、不採算医療を担わなければならない一方で、通常1、000千円の費用を要する法人
監査を受けなければならないことも特色の一つといえる(資料A)。

2.基金拠出型医療法人の特徴

 基金とは、資本金とは異なり「一定の目的のために積立または準備しておく資金」という概念から、基金拠出者への返還義務が生じる資金である・医療法人の資金調達として活用できることから、次の特徴がある。
【1】「基金制度」として、個々の医療法人の定款の定めによって活用可能(任意)。
【2】「基金制度」を採用しても、拠出(寄附)は受けられる。
【3】基金は、外部から調達する劣後債務の一形態である。
【4】基金の使途は制限されない。
【5】基金の拠出者は必ずしも「法人社員」たる地位を有するとは限らない。
【6】基金の拠出者は個人・法人を問わない。
【7】基金の募集は、医療法人設立時、設立後および移行時、移行後でも可能である。
【8】基金返還の手続は、定款で定める。
【9】基金の返還は「拠出額を限度」とする。
【10】基金の返還原資は、毎事業年度の貸借対照表上の純資産額が、基金の総額等を超える場合におけるその「超過額」に限られる。
【11】基金の所有および返還に係る債権には利息をつけることはできない。
【12】基金の返還について、返還額に相当する金額を代替基金として純資産の部に計上する。
【13】代替基金は、取り崩すことができない。
【14】医療法人が解散する場合、基金の返還に係る債務の弁済は、その他の債務が弁済された後でなければできない。
【15】医療法人が破産手続き開始の決定を受けた場合、基金の返還に係る債権は破産法上のいわゆる「劣後的破産債権」に劣後する。

 以上の特徴から具体的な導入の一歩は、当該医療法人の定款に「基金」に関する条文を設定することから始めなければならない(資料B参照)。さらに、設立総会(臨時定時社員総会等)にて協議・決議を行う等、今後、株式会社等あるゆる団体、個人等からの資金を調達する手段として、この「基金」の導入が有効なシステムになりうることは明確な事実である。また各都道府県の所管担当窓口の指導も近年容認している傾向にある。

3.既存の「持分の定めある医療法人社団」の動向

 当該新法の「基金拠出型法人」以前の「持ち分の定めある医療法人」(旧法取扱い)は「当分の間」は存続するという解釈が適応されている。したがって、3年、5年、10年先等が不明であり、事実上の無制限ということになる。この裏付けとして「〇年先にまたは〇年を経過した後に、個人の収支財産を強制的に徴収する。」等という形は、憲法第29条「財産権の保障」を侵害する恐れがあるという論が立つことからも、重ねて事実上無制限にせざるをえないということになる。

 いずれにしても、平成19年4月1日以降に新たに設立認可された医療法人は、「基金拠出型法人」に限定されることからも、旧法での医療法人の大半は法律上は「当分の間」存続する形にある。そして、この持分の定めある医療法人社団は「経過措置型医療法人」として分類されている。

まとめ

 第5次医療法改正後、年間の医療法人設立依頼、相談件数は改正前と変わらず一定の推移にある・なかでも近年、株式会社の資金を医業経営へ導入したいとのヶースでは、営利企業が設立時の「基金」を100%拠出し、理事長である医師には一切の金銭負担をゼロとする条件で、診療所の新規開設を経て基金拠出型医療法人設立の認可を諮るなど、同様の計画案が増加傾向にある。たとえば、性感染症治療を主力とする薬剤メーカーやアスレチックジム運営法人等と各専門医師の連携である。また、所管行政である東京都にあっては、医療法人設立申請時において、必ずしも診療所の保有義務は問われず、「法人設立後2年間の事業計画」の初年度に明確な診療所開設計画(具体的な物件や資金の裏付け)がなされていれば法人設立要件としてクリアできる。その他、県外の指導では、最低1年以上の個人開業実績を設ける等、個別の案件として事前協議をもって対応する必要がある。

 このように「基金」という資金調達方法が、医療法人にとっては有益であるものの、基金拠出者である「企業」にとっては、ほとんどメリットが得られないことは前記の「2 基金拠出型医療法人の特徴」に述べた通り明らかである。

 しかし拠出者(企業)と医療法人が相互利益供与を禁止されているにもかかわらず、あえてこの医業スキームを構築する目的はどこにあるのだろうか。個々の事業形態や収益構造の内容等、固有の事情は異なれ、「地域住民に安定した医療サービスの提供を具現化する」という社会貢献の姿勢は、医療法人組織を担う立場の根幹に値するものと肝に銘じるべきと考える。また、この結果がもたらす評価をさらに企業・医療法人はいかにして活し続けるか? 経営安定維持に繋げるか?「基金拠出型」という新しい法人スタイルの有益性についても、一層掘りさげた議論がなされる事を期待する。

資料A

医療費と健康結果の理論モデル

資料B 『基金』制度に関する条文(案)

 第 章 基 金
第 条 本社団は、その財政的基盤の維持を図るため、基金を引き受ける者の募集をすることができる・
第 条 本社団は、基金の拠出者に対して、本社団と基金の拠出者との間の合意の定めるところに従い返還義務(金銭以外の財産については、拠出時の当該財産の価額に相当する金銭の返還義務)を負う。
第 条 基金の返還は、定時社員総会の決議によって行わなければならない。
2 本社団は、ある会計年度に係る貸借対照表上の純資産額が次に掲げる金額の合計額を超える場合においては、当該会計年度の次の会計年度の決算の決定に関する定時社員総会の日の前日までの間に限り、当該超過額を返還の総額の限度として基金の返還をすることができる。
(1)基金(代替基金を含む。)
(2)資本剰余金
(3)資産につき時価を基準として評価を行ったことにより増加した貸借対照表上の純資産額
3 前項の規定に違反して本社団が基金の返還を行った場合には、当該返還を受けた者及び当該返還に関する職務を
行った業務執行者は、本社団に対し、連帯して、返還された額を弁済する責任を負う。
4 前項の規定にかかわらず、業務執行者は、その職務を行うについて注意を怠らなかったことを証明したときは、同項の責任を負わない。
5 第3項の業務執行者の責任は、免除することができない。但し、第2項の超過額を限度として当該責任を免除することについて総社貝の同意がある場合は、この限りでない。
6 第2項の規定に違反して基金の返還がされた場合においては、本社団の債権者は、当該返還を受けた者に対し、当該返還の額を本社団に対して返還することを請求することができる。
第 条 基金の返還に係る債権には、利息を付すことができない。
第 条 基金の返還をする場合には、返還をする基金に相当する金額を代替基金として計上しなければならない。
2 前項の代替基金は、取り崩すことができない。

第 章 〇〇〇〇

【1】メリット
〔社会的信用の高まり〕
 個人の家計と医療法人会計を区分することにより、金融機関を含むファイナンスからの社会的信用(与信)は高まり、患者を含む地域住民からの信頼や安心感は大きい。
〔税率が低くなる〕
 個人事業では、所得が18、000千円を超えると、最高で40%〈住民税10%は別途〉が適用されるのに対し、医療法人では所得18、000千円以上で一律30%〈住民税5。2%は別途〉と税額軽減となる。また所得の分散効果にも繋がる。
〔退職金の損金参入が可能〕
 個人事業では税法上、院長自身と生計を共にする親族の退職金の支払いは認められていないが、医療法人ではこれらが支払い可能であり、法人として損金処理が可能となる。
退職金の考え方:例)最終月額報酬×在任年数×功績倍率
〔生命保険の活用〕
 個人事業では、院長自身の生命保険料は所得控除で年金保険料を含め最高100千円、医療法人では契約者=法人、被保険者=理事長・理事、受取人=法人の形とすれば支払った保険料の半額を法人の損金処理が可能となる。
〔社会保険診療報酬の源泉徴収が不要〕
 期中資金繰りのメリット
〔7年間の繰越控除〕
 赤字決算について個人事業では3年間、医療法人では7年間
〔安定した事業継承対策〕
個人事業では、院長自身が亡くなってしまうと即「廃止」となるが、医療法人では新理事長を選任することで継続はスムーズであり、また引退の場合でも「理事」としての留任案から運営参加等その選択肢の幅は広い。

【2】デメリット
〔残余財産の分配不可〕
 拠出型特有の条件から、残余財産の帰属は地方公共団体または類似の医療法人とされ、医療法人解散後も残余財産の個人分配は厳しく禁止されている。
〔剰余金の配当禁止〕
 医療法第54条の根拠により、剰余金の出資者等への配当を禁止している。
〔事務手続きの煩雑〕
 決算終了後の「事業報告書等」の所管提出や併せて資金総額の変更登記は毎年義務化されており、さらに2年毎の役員の選任と理事長の変更登記義務等々、従来の指導項目レベルであったものが義務化され、平素の指導項目として監督される。
〔社会保険加入の義務〕
 院長も含めて全員が必ず社会保険に加入しなければならず、保険料は事業主負担増となる。
⇒⇒⇒将来の年金給付、福利厚生の充実からもメリットと評する点もあるが。
〔交際費の限度〕
 個人事業と異なり接待交際費は全額無制限から、医療法人では資本金の額に応じて交際費としての損金算入額が決定する。
例)資本金100、000千円以下 ⇒⇒⇒ 年間4、000千円
  資本金100、000千円以上 ⇒⇒⇒ 全額損金算入不可
〔所管窓口行政の指導強化〕
 従来から医療法人に対する行政指導は、法人としての定款変更等で申請手続きを受理するさいに、関係書類から指導を受ける等、軽微なケースが主流であった。しかし、今般の医療法改正以降では、前記事業報告義務や変更登記に係る事務処理確認等のルーチン化された監視業務がシステム化され、さらに第三者からの情報提供に基づく事実確認等々、従前にも増して行政の指導・立ち入り調査は強化されつつある。

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